体育館。
今日はバレーの授業で、義武は完全に磔状態だった。
「ようし。じゃあお前ら、一人づつ順番に、義武のケツにサーブをぶちかませ」
ぴゅい、と体育教師の森田が笛を鳴らすと、列の一番前に立っていた生徒が手に持っていたバレーボールを真上に投げ上げた。
「そう、れっ」
見事なフォームから勢いよく放たれたサーブ。それは真っ直ぐに義武のケツに向かった。
「おっほ」
ボールが激突した瞬間、義武は堪えきれず声を上げた。ピンポイントに当たったら、すげえ痛いのである。そして義武は自らのケツがどうかしてしまったのではないかと心配になり、触って確かめてみたそうな顔をした。磔にされている為、それは叶わぬ願いである。
「へいへいへい。一発目で声上げるなんて情けないねー」
「そんなんで残り耐えられるわけー?」
野次が飛ぶ。
無理だろうな、義武は思ったが、決して声には出さない。弱音を吐くことも抗議することも、今の彼には許されていない。下手に発言して彼女らを逆上させれば、これ以上の酷い罰を受けることになるかもしれない。一応森田が監督してくれているとはいえ、それも女子たちの怒りの前では当てにならない。
「次行くよー」
次の生徒が声を上げる。そして言い終わってすぐに、2発目の衝撃が義武を襲った。
「っふお」
漏れ出した声とともに、義武を磔にしている十字架が揺れた。暴れたところで拘束が解けるわけではない。しかしそれでも、義武は暴れずにはいられなかった。痛いからである。
「ほい次ー」
3番手にバレー部の女子が見事なサーブを決める。強いドライブのかかったそれは、義武のケツに強烈な摩擦を与えた。あまりの熱さに、義武はケツが火傷したのではないかと疑った。そしてそれを確かめてみたそうな顔をした。しかし皆に背を向けている為、その表情は誰にも伝わらなかった。
「あれ、何も言わないね」
「もしかして泣いちゃった?」
女子達の声の通り、義武は泣いていた。声こそ上げないが、その両目からは確かに涙が流れていたのだ。その理由は痛いから。ケツが猛烈に、焼けるような感覚。それだけで涙するに十分だった。
しかし、それだけではない。
義武は心の底から、悔しがっていた。
俺は悪いことなんてしてない。
ただ、女子のスカートがひらひらしてるから、中が気になって、捲ってみただけなんだ。
そしたらパンツがあったから、中が気になって、下ろしてみたら、さらにケツがあったから、何重構造だよって思って、叩いてみた……それだけなんだ……。
「それ十分じゃないのー」
クラスメイトのエスパー雅美が義武の心を読んだ。同時にサーブを放つ。
念力によりあり得ないほどの回転がかかったそれは、義武のケツに当たった瞬間、焦げ臭い臭いを発した。
「くせえ! 義武、くせえ!」
一人の女子が大きな声で言うと、皆いっせいに笑い出した。監督責任者である森田でさえ、くすっとした。しかしもちろん、義武に笑みはない。
「ふおっふおおお」
燃え上がるようなケツの感覚に、義武はパニック状態だった。もうケツがないんじゃないかとさえ思えた。今までの人生が楽園に思えた。走馬灯がチラッと見えた。
しかし、そんな義武の16年間を打ち砕くかのように、次なる一撃が放たれる。
佐々木、宇都宮、榎本の仲良し三人組である。
彼女らの仲良しぶりは校内の生徒全員が知るほどであり、それ故に、サーブも三人で一回だった。
「「「義武耐えられそうにないし、これで一回にしてやんよ」」」
喋りさえも三人は同時だ。
さらに、毎日同じ飯を食っているし、風呂も一緒に入るし、トイレも三人で一室をシェアする。
顔もそっくりなため、三つ子かクローンではないかとの噂も絶えないが、三人はそれを否定し続けている。「あたしらミラクル級に仲良しなだけなんで」が決まり文句だ。
そんな三人の放つサーブは、エスパー雅美の協力の下、成り立つ。
まず、雅美の超能力により、仲良し三人組は霊体となり、ボールに憑依する。抜け殻となった肉体は崩れ落ち、パンツは丸見えとなる。
そして雅美は三人分の魂に加えて自らの念力をボールに込め、全力のサーブを放つのだ。
「「「いっけええええ」」」
三人分の魂と念力が乗ったボールは、ボールの形をしたエネルギー弾と言えた。
青い光を纏った三人+一人の一撃は、稲妻のような軌跡を描き、義武のケツに向かった。
そして衝突の瞬間、体育館内は閃光に包まれた。
その時、義武はビックリしていた。まさか齢16にしてエネルギー弾による攻撃を受けることになるとは、思っていなかったのである。まるでドラゴンボールだ、と光の中で義武は思った。少年漫画を愛する義武にとって、ドラゴンボールの戦いは一種の憧れであったが、流石にこの状況でそれを喜ぶ余裕は無かった。ただ漠然と、戦いの中に身を投じている自分を、思い浮かべていた。
あまりの衝撃に十字架が軋む。体育館ごと吹き飛ぶのではないかというほどの威力。義武の正面に位置していたステージの幕は、衝撃波に耐え切れず引き裂かれた。ステージ上の飾られた校章は壁にめり込んで見えなくなった。
しかし、義武は生きていた。ケツはえらいことになっていたが、命はなんとか繋ぎとめられた。痛みはもはや無く、ただ、えらいことになっているという実感だけがあった。
荒い息を上げる。失いかけた意識を取り戻す。そして、背後から声が聞こえていることに気づく。
「やば。ボール破裂しちゃった」
「ちょ、雅美やりすぎ。マジ光りすぎで目とか痛いし」
「つーかやばかった。あたしらも死んだかと思ったもん」
ごめーん、と雅美は笑いながら、抜け殻となっていた三人の肉体に魂を呼び戻す。
目を覚ました三人は、しかし次の瞬間に気絶した。全精神力を使い果たしたせいだ、と雅美が皆に説明する。再び丸見えとなったパンツは、森田を興奮させた。
「しかしなあ、お前ら、流石にもういいだろ」
気を取り直して森田はため息をつく。
「ボールも無くなったし、体育館ボロボロだし、それにほら、見てみろ義武のケツを」
指差した先を見た女子達の間で、悲鳴が上がる。
見た目のグロテクスさにおいて、義武のケツは彼女達の約16年の歴史を塗り替えるほどだったのだ。目にした瞬間に、嫌悪感から逃げ出す者や、嘔吐する者さえいた。
森田は女子達の予想外の拒否反応にビックリした。グロ画像を掲示板に貼り付ける嫌がらせを唯一の趣味としていた彼は、耐性が強かったのだ。「ちょ、そんな、落ち着けよ」と口では皆を取り成しながらも、おろおろしていた。
「やべえ! 義武、やべえ!」
そんな阿鼻叫喚の体育館内で、一人の女子が大声を上げる。先ほど義武のケツの臭いを敏感に察知した女子だ。彼女は何かと大声を出す。
「やべえ! ケツ! やべえし!」
すると他の女子が、さっきの「くせえ!」の流れを思い出して思わず噴き出した。笑いが皆にも伝染する。嘔吐した者も、自分の吐しゃ物に笑った。
あっという間に体育館が笑いに包まれ、義武のグロテスクなケツもネタ扱いされた。
「ケツウェルダン!」と皆で声をそろえて言うのが一瞬で流行した。
森田も顔を伏せてニヤニヤし始めた。
「いや、笑えねえし! ケツ! やべえよ! 義武!」
館内の笑いは、間もなく校内全域に広がっていく。
ただ二人、義武のケツを本気で心配していた女子と、義武本人を取り残して。
「義武! 義武! ケツ!! ケツが!!」
絶叫し続ける女子と周囲の笑い声の中、義武は気絶した。
今日はバレーの授業で、義武は完全に磔状態だった。
「ようし。じゃあお前ら、一人づつ順番に、義武のケツにサーブをぶちかませ」
ぴゅい、と体育教師の森田が笛を鳴らすと、列の一番前に立っていた生徒が手に持っていたバレーボールを真上に投げ上げた。
「そう、れっ」
見事なフォームから勢いよく放たれたサーブ。それは真っ直ぐに義武のケツに向かった。
「おっほ」
ボールが激突した瞬間、義武は堪えきれず声を上げた。ピンポイントに当たったら、すげえ痛いのである。そして義武は自らのケツがどうかしてしまったのではないかと心配になり、触って確かめてみたそうな顔をした。磔にされている為、それは叶わぬ願いである。
「へいへいへい。一発目で声上げるなんて情けないねー」
「そんなんで残り耐えられるわけー?」
野次が飛ぶ。
無理だろうな、義武は思ったが、決して声には出さない。弱音を吐くことも抗議することも、今の彼には許されていない。下手に発言して彼女らを逆上させれば、これ以上の酷い罰を受けることになるかもしれない。一応森田が監督してくれているとはいえ、それも女子たちの怒りの前では当てにならない。
「次行くよー」
次の生徒が声を上げる。そして言い終わってすぐに、2発目の衝撃が義武を襲った。
「っふお」
漏れ出した声とともに、義武を磔にしている十字架が揺れた。暴れたところで拘束が解けるわけではない。しかしそれでも、義武は暴れずにはいられなかった。痛いからである。
「ほい次ー」
3番手にバレー部の女子が見事なサーブを決める。強いドライブのかかったそれは、義武のケツに強烈な摩擦を与えた。あまりの熱さに、義武はケツが火傷したのではないかと疑った。そしてそれを確かめてみたそうな顔をした。しかし皆に背を向けている為、その表情は誰にも伝わらなかった。
「あれ、何も言わないね」
「もしかして泣いちゃった?」
女子達の声の通り、義武は泣いていた。声こそ上げないが、その両目からは確かに涙が流れていたのだ。その理由は痛いから。ケツが猛烈に、焼けるような感覚。それだけで涙するに十分だった。
しかし、それだけではない。
義武は心の底から、悔しがっていた。
俺は悪いことなんてしてない。
ただ、女子のスカートがひらひらしてるから、中が気になって、捲ってみただけなんだ。
そしたらパンツがあったから、中が気になって、下ろしてみたら、さらにケツがあったから、何重構造だよって思って、叩いてみた……それだけなんだ……。
「それ十分じゃないのー」
クラスメイトのエスパー雅美が義武の心を読んだ。同時にサーブを放つ。
念力によりあり得ないほどの回転がかかったそれは、義武のケツに当たった瞬間、焦げ臭い臭いを発した。
「くせえ! 義武、くせえ!」
一人の女子が大きな声で言うと、皆いっせいに笑い出した。監督責任者である森田でさえ、くすっとした。しかしもちろん、義武に笑みはない。
「ふおっふおおお」
燃え上がるようなケツの感覚に、義武はパニック状態だった。もうケツがないんじゃないかとさえ思えた。今までの人生が楽園に思えた。走馬灯がチラッと見えた。
しかし、そんな義武の16年間を打ち砕くかのように、次なる一撃が放たれる。
佐々木、宇都宮、榎本の仲良し三人組である。
彼女らの仲良しぶりは校内の生徒全員が知るほどであり、それ故に、サーブも三人で一回だった。
「「「義武耐えられそうにないし、これで一回にしてやんよ」」」
喋りさえも三人は同時だ。
さらに、毎日同じ飯を食っているし、風呂も一緒に入るし、トイレも三人で一室をシェアする。
顔もそっくりなため、三つ子かクローンではないかとの噂も絶えないが、三人はそれを否定し続けている。「あたしらミラクル級に仲良しなだけなんで」が決まり文句だ。
そんな三人の放つサーブは、エスパー雅美の協力の下、成り立つ。
まず、雅美の超能力により、仲良し三人組は霊体となり、ボールに憑依する。抜け殻となった肉体は崩れ落ち、パンツは丸見えとなる。
そして雅美は三人分の魂に加えて自らの念力をボールに込め、全力のサーブを放つのだ。
「「「いっけええええ」」」
三人分の魂と念力が乗ったボールは、ボールの形をしたエネルギー弾と言えた。
青い光を纏った三人+一人の一撃は、稲妻のような軌跡を描き、義武のケツに向かった。
そして衝突の瞬間、体育館内は閃光に包まれた。
その時、義武はビックリしていた。まさか齢16にしてエネルギー弾による攻撃を受けることになるとは、思っていなかったのである。まるでドラゴンボールだ、と光の中で義武は思った。少年漫画を愛する義武にとって、ドラゴンボールの戦いは一種の憧れであったが、流石にこの状況でそれを喜ぶ余裕は無かった。ただ漠然と、戦いの中に身を投じている自分を、思い浮かべていた。
あまりの衝撃に十字架が軋む。体育館ごと吹き飛ぶのではないかというほどの威力。義武の正面に位置していたステージの幕は、衝撃波に耐え切れず引き裂かれた。ステージ上の飾られた校章は壁にめり込んで見えなくなった。
しかし、義武は生きていた。ケツはえらいことになっていたが、命はなんとか繋ぎとめられた。痛みはもはや無く、ただ、えらいことになっているという実感だけがあった。
荒い息を上げる。失いかけた意識を取り戻す。そして、背後から声が聞こえていることに気づく。
「やば。ボール破裂しちゃった」
「ちょ、雅美やりすぎ。マジ光りすぎで目とか痛いし」
「つーかやばかった。あたしらも死んだかと思ったもん」
ごめーん、と雅美は笑いながら、抜け殻となっていた三人の肉体に魂を呼び戻す。
目を覚ました三人は、しかし次の瞬間に気絶した。全精神力を使い果たしたせいだ、と雅美が皆に説明する。再び丸見えとなったパンツは、森田を興奮させた。
「しかしなあ、お前ら、流石にもういいだろ」
気を取り直して森田はため息をつく。
「ボールも無くなったし、体育館ボロボロだし、それにほら、見てみろ義武のケツを」
指差した先を見た女子達の間で、悲鳴が上がる。
見た目のグロテクスさにおいて、義武のケツは彼女達の約16年の歴史を塗り替えるほどだったのだ。目にした瞬間に、嫌悪感から逃げ出す者や、嘔吐する者さえいた。
森田は女子達の予想外の拒否反応にビックリした。グロ画像を掲示板に貼り付ける嫌がらせを唯一の趣味としていた彼は、耐性が強かったのだ。「ちょ、そんな、落ち着けよ」と口では皆を取り成しながらも、おろおろしていた。
「やべえ! 義武、やべえ!」
そんな阿鼻叫喚の体育館内で、一人の女子が大声を上げる。先ほど義武のケツの臭いを敏感に察知した女子だ。彼女は何かと大声を出す。
「やべえ! ケツ! やべえし!」
すると他の女子が、さっきの「くせえ!」の流れを思い出して思わず噴き出した。笑いが皆にも伝染する。嘔吐した者も、自分の吐しゃ物に笑った。
あっという間に体育館が笑いに包まれ、義武のグロテスクなケツもネタ扱いされた。
「ケツウェルダン!」と皆で声をそろえて言うのが一瞬で流行した。
森田も顔を伏せてニヤニヤし始めた。
「いや、笑えねえし! ケツ! やべえよ! 義武!」
館内の笑いは、間もなく校内全域に広がっていく。
ただ二人、義武のケツを本気で心配していた女子と、義武本人を取り残して。
「義武! 義武! ケツ!! ケツが!!」
絶叫し続ける女子と周囲の笑い声の中、義武は気絶した。
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人気のない廃校舎。の教室。その中で私はひとり、下手糞な合成写真のように突っ立っていた。
まさか本当にあるなんて。
正直信じてはいなかった。同窓会の2次会で、酒に酔った旧友の、それも人伝に聞いたという話だ。鵜呑みに出来るはずはない。それでも。
あれさ、まだ残ってるらしいよ。場所もそのまんまで。捨てりゃいいのに、よっぽど面倒だったのかな。
まじで、と笑いながら聞いていた私は、しかし内心動揺していた。忘れていた記憶が、呼び起こされた。どうしようもなく嫌な記憶でしかないはずなのに、その話を聞いた時から胸の昂ぶりが止まらなかった。
抑える為には、来るしかなかった。
「ほんとに、そのまま……」
近づいていき、そっと手を伸ばす。埃にまみれながらも、その姿は記憶のまま。あの頃の空気を、確かに思い出させてくれた。
痛くて、恥ずかしくて、ただただ辛い思い出。
それでも私は、ここに来てしまった。そして『それ』を見て、触って、何故かほっとした。変わらないでいてくれた事に、純粋に安心した。
「まだ……動くかな」
肩に下げていた荷物を下ろすと、その中から乾電池を数本、取り出した。そして『それ』の側面に手をかけ、蓋をはずす。中に、電池をはめ込む。
いつも背面から伸びているACコードを繋いでいたから、電池駆動もできるなんて知らなかった。今日のために、わざわざ調べておいたのだ。
作業を進めながら、苦笑した。廃校舎にまで忍び込んで、何を必死になっているんだ。
そんなにも、この子が見たかったのか。また『おしおき』されたかったのか。
「……」
自分でも説明なんてできない。ただ気持ちの通りに動いたら、こうなっていただけ。そして今も、思うままに動いている。この後どうするかなんて考えていない。
準備が終わった。
そっと電源のスイッチを押すと、POWERランプが光り、懐かしい駆動音が聞こえる。
『腕』が定位置まで上がり、少しするとREADYランプが点灯する。
その光景を見ていた私は、泣きそうになっていた。そうだ、この瞬間が、一番恥ずかしかった。みんなの前で先生が電源を入れ、準備完了を待つのだ。腕が上がっていくのを見ながら、私の心臓は破裂しそうなほどに強く鳴っていた。顔だって真っ赤になっていたに違いない。
そして準備が終わったら。
私は念のため周りに誰かいないか確認してから、スカートの中の下着に手をかけた。それを膝の辺りまで下ろすと、そっとスカートを捲り上げた。
この子は初期のタイプだったから、下着を脱がせるような高度な機能はついていなかった。
みんなの前で自らお尻を出すのは、耐えられないくらい恥ずかしかった。『おしおき』の前に泣き出してしまって、追加の罰を受けた子もいた。
辛いのに、恥ずかしいのに、私は自ら進んで『膝』の上に乗った。あの頃では、考えられなかった。
私は、卒業してから10年、この子を求めていたのか。叱られたかったのか。感情もない機械にお尻を叩かれてわんわん泣きたかったのか。それは一体、どういう気持ちだろう。
考えても、表現なんてできない。誰にも分かってはもらえない。私にもわからないのだから。
でも、今の私の行動には強い想いがある。
それだけ確かで、だから迷いもなく。
運転スイッチに手を伸ばす。きつく目を瞑り、覚悟をこめて指を押し込む。
「おしおきを、お願いします」
まさか本当にあるなんて。
正直信じてはいなかった。同窓会の2次会で、酒に酔った旧友の、それも人伝に聞いたという話だ。鵜呑みに出来るはずはない。それでも。
あれさ、まだ残ってるらしいよ。場所もそのまんまで。捨てりゃいいのに、よっぽど面倒だったのかな。
まじで、と笑いながら聞いていた私は、しかし内心動揺していた。忘れていた記憶が、呼び起こされた。どうしようもなく嫌な記憶でしかないはずなのに、その話を聞いた時から胸の昂ぶりが止まらなかった。
抑える為には、来るしかなかった。
「ほんとに、そのまま……」
近づいていき、そっと手を伸ばす。埃にまみれながらも、その姿は記憶のまま。あの頃の空気を、確かに思い出させてくれた。
痛くて、恥ずかしくて、ただただ辛い思い出。
それでも私は、ここに来てしまった。そして『それ』を見て、触って、何故かほっとした。変わらないでいてくれた事に、純粋に安心した。
「まだ……動くかな」
肩に下げていた荷物を下ろすと、その中から乾電池を数本、取り出した。そして『それ』の側面に手をかけ、蓋をはずす。中に、電池をはめ込む。
いつも背面から伸びているACコードを繋いでいたから、電池駆動もできるなんて知らなかった。今日のために、わざわざ調べておいたのだ。
作業を進めながら、苦笑した。廃校舎にまで忍び込んで、何を必死になっているんだ。
そんなにも、この子が見たかったのか。また『おしおき』されたかったのか。
「……」
自分でも説明なんてできない。ただ気持ちの通りに動いたら、こうなっていただけ。そして今も、思うままに動いている。この後どうするかなんて考えていない。
準備が終わった。
そっと電源のスイッチを押すと、POWERランプが光り、懐かしい駆動音が聞こえる。
『腕』が定位置まで上がり、少しするとREADYランプが点灯する。
その光景を見ていた私は、泣きそうになっていた。そうだ、この瞬間が、一番恥ずかしかった。みんなの前で先生が電源を入れ、準備完了を待つのだ。腕が上がっていくのを見ながら、私の心臓は破裂しそうなほどに強く鳴っていた。顔だって真っ赤になっていたに違いない。
そして準備が終わったら。
私は念のため周りに誰かいないか確認してから、スカートの中の下着に手をかけた。それを膝の辺りまで下ろすと、そっとスカートを捲り上げた。
この子は初期のタイプだったから、下着を脱がせるような高度な機能はついていなかった。
みんなの前で自らお尻を出すのは、耐えられないくらい恥ずかしかった。『おしおき』の前に泣き出してしまって、追加の罰を受けた子もいた。
辛いのに、恥ずかしいのに、私は自ら進んで『膝』の上に乗った。あの頃では、考えられなかった。
私は、卒業してから10年、この子を求めていたのか。叱られたかったのか。感情もない機械にお尻を叩かれてわんわん泣きたかったのか。それは一体、どういう気持ちだろう。
考えても、表現なんてできない。誰にも分かってはもらえない。私にもわからないのだから。
でも、今の私の行動には強い想いがある。
それだけ確かで、だから迷いもなく。
運転スイッチに手を伸ばす。きつく目を瞑り、覚悟をこめて指を押し込む。
「おしおきを、お願いします」
「いや、ごめんなさい。許して」
懇願する声を無視して、勢いよく振り下ろされる掌。衝撃と同時に、若菜の尻は赤く咲いた。悲鳴が漏れる。
「許しを乞うか。若菜、自らの過ちを悔いているのならば、そんな言葉は出ないはずだが」
声がいっそう厳しくなる。しかし若菜は、痛みと恥ずかしさから、祖父の様子をよく観察できなかった。必死の様子で、なおも頭を下げる。
「ごめんなさい。私の不注意で。反省しています。だから」
だが、祖父は手を休めることなく、次の一打を繰り出す。
「わしには、今のお前の言葉は罰を逃れたいがための其の場しのぎにしか聞こえんよ」
続いてもう一発。涙が零れ、畳を濡らす。
「ああ、もう駄目です。許して下さい」
「くどい!」
一喝と共に、2発、3発を続けざまに叩かれる。
普段では絶対にありえないであろう若菜の悲鳴が、泣きじゃくる声が、祖父の部屋を埋める。
高校生にもなって四つんばいの姿勢で尻を叩かれることの惨めさを、彼女は早くも忘れかけていた。それほどまでに祖父の掌は力強かった。今はただ、尻の痛みに耐えることで精一杯だった。
しかし泣き叫ぶ若菜の様子を見て尚、祖父の罰は続いた。
100叩きだと、初めに決まっていたのだ。それが相応の罰であるという祖父の意見は、決して曲がる事は無さそうだった。
40、50と回数を重ねる。
若菜は途中泣き疲れ、しばらくしてまた痛みに声を張り上げた。むき出しの尻はどんどんと赤く染まり、しかし祖父の掌にこめる力は、一向に衰えなかった。ただひらすらに、同じ痛みを、若菜に与え続けた。
そして遂に終わりを迎える。
「若菜、あと5回だ。しっかり数えておけ」
1発。
「きゅうじゅう、ろく」
2発。
「きゅう、じゅ、なな」
3発、4発。
「きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅう」
そして最後の一発。100発もらっても慣れることの無い痛み。
「ひゃ……く」
罰が終わると、若菜はしばらく息を整えた後、祖父のほうに向き直り、疲れた声で、しかし精一杯に頭を下げた。
「お仕置き、ありがとうございました。そしてごめんなさい、お爺様」
「罰は受けただろう。それに、随分反省したようだしな。もう謝ることはない」
「でも、あの盆栽は、お爺様がとても大事にしてたものじゃ」
若菜が顔を上げる。泣きはらした目に、また涙が浮かんでくる。
「確かにあの盆栽は大事にしていた。だが、わしが仕置きをしたのは、お前が罪を犯しても反省しないような人間になって欲しくなかったからだ。今回はいい機会だった。だからもう気に病むな」
祖父の言葉に、落ち込んでいた若菜は少しだけ元気付けられた。反省も後悔ももちろん残るが、許されたことで、気持ちは楽になった。
「ありがとうございます」
改めて頭を下げ、礼を言った。心からの言葉だった。
「もう戻るといい」
若菜は、下着をスカートをはくと、一礼して祖父の部屋を出た。
尻の痛みはまだ続いていたが、大切な何かを学べた気がした。
懇願する声を無視して、勢いよく振り下ろされる掌。衝撃と同時に、若菜の尻は赤く咲いた。悲鳴が漏れる。
「許しを乞うか。若菜、自らの過ちを悔いているのならば、そんな言葉は出ないはずだが」
声がいっそう厳しくなる。しかし若菜は、痛みと恥ずかしさから、祖父の様子をよく観察できなかった。必死の様子で、なおも頭を下げる。
「ごめんなさい。私の不注意で。反省しています。だから」
だが、祖父は手を休めることなく、次の一打を繰り出す。
「わしには、今のお前の言葉は罰を逃れたいがための其の場しのぎにしか聞こえんよ」
続いてもう一発。涙が零れ、畳を濡らす。
「ああ、もう駄目です。許して下さい」
「くどい!」
一喝と共に、2発、3発を続けざまに叩かれる。
普段では絶対にありえないであろう若菜の悲鳴が、泣きじゃくる声が、祖父の部屋を埋める。
高校生にもなって四つんばいの姿勢で尻を叩かれることの惨めさを、彼女は早くも忘れかけていた。それほどまでに祖父の掌は力強かった。今はただ、尻の痛みに耐えることで精一杯だった。
しかし泣き叫ぶ若菜の様子を見て尚、祖父の罰は続いた。
100叩きだと、初めに決まっていたのだ。それが相応の罰であるという祖父の意見は、決して曲がる事は無さそうだった。
40、50と回数を重ねる。
若菜は途中泣き疲れ、しばらくしてまた痛みに声を張り上げた。むき出しの尻はどんどんと赤く染まり、しかし祖父の掌にこめる力は、一向に衰えなかった。ただひらすらに、同じ痛みを、若菜に与え続けた。
そして遂に終わりを迎える。
「若菜、あと5回だ。しっかり数えておけ」
1発。
「きゅうじゅう、ろく」
2発。
「きゅう、じゅ、なな」
3発、4発。
「きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅう」
そして最後の一発。100発もらっても慣れることの無い痛み。
「ひゃ……く」
罰が終わると、若菜はしばらく息を整えた後、祖父のほうに向き直り、疲れた声で、しかし精一杯に頭を下げた。
「お仕置き、ありがとうございました。そしてごめんなさい、お爺様」
「罰は受けただろう。それに、随分反省したようだしな。もう謝ることはない」
「でも、あの盆栽は、お爺様がとても大事にしてたものじゃ」
若菜が顔を上げる。泣きはらした目に、また涙が浮かんでくる。
「確かにあの盆栽は大事にしていた。だが、わしが仕置きをしたのは、お前が罪を犯しても反省しないような人間になって欲しくなかったからだ。今回はいい機会だった。だからもう気に病むな」
祖父の言葉に、落ち込んでいた若菜は少しだけ元気付けられた。反省も後悔ももちろん残るが、許されたことで、気持ちは楽になった。
「ありがとうございます」
改めて頭を下げ、礼を言った。心からの言葉だった。
「もう戻るといい」
若菜は、下着をスカートをはくと、一礼して祖父の部屋を出た。
尻の痛みはまだ続いていたが、大切な何かを学べた気がした。