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2025/01/18 22:20 |
味噌汁争奪戦
僕はいつも思う。
もし味噌汁がこの世に茶碗3杯分くらいしか存在しない超貴重品で、
その超貴重品が今、この教室内にパッと現れたら、みんなはどんな反応を示すのだろう、と。

まず真っ先に動くのはヨシダだろう。
ヤツはネズミの如く俊敏で、尚且つハイエナの如く狡猾だ。
そんな二つの盗賊スキルを自分のモノにしてしまっている生まれながらの大罪人ヨシダなら、そのドブ川に三日間浸したようなドス黒い瞳を今までにないくらいキラキラと輝かせ飛びつくだろう、味噌汁に。

しかしそのままヨシダの薄汚い胃に収まってしまうほど、味噌汁争奪戦は甘くない。

次に動くのは只今授業真っ最中の担任教師、イワナカ。
そう、ヤツはこの教室内にいる者の中で唯一、『教師』という肩書きを持っている。
いうなれば絶対的権力者。このクラスの王である。

ヤツはこう言うだろう。

「コラコラ、今は授業中だぞ!その味噌汁は先生が預かっておいてやるから、放課後、皆でジャンケンして勝った人が貰えるって事にしよう。それなら公平だろう?ま、とりあえず今は授業に集中して、神経を研ぎ澄ませるんだ」

そしてイワナカは約束を破る。
授業が終わって、味噌汁を手に教室を出ると、光の速さで口をタコのように尖らせる。ヤツは狙っていたのだ、この瞬間を。

もうイワナカを止めるものはいない。至福の時が始まる。
イワナカの口、ストローのように筒状。効率よく味噌汁をすする為だ。
ゆっくりと、茶碗に近づける。
その茶色い液体に口をつけた瞬間、イワナカの勝利が確定する。


しかしイワナカは阻まれる。
権力者が全てを支配する時代はもう終わったのだ、そう告げるかの如く。

現れたのはクラス1のSMマスターガール、お銀だ。
イワナカの顔が引きつる。脳内に焼き付けられたお銀の恐怖が、蘇ったのだ。

お銀のスキル、それは尻叩き。
ヤツは一旦火がつくと、まるで暴走機関車の如く他人の尻を叩く。
それはお銀が怒ったとき、悲しみにくれている時、あまりにも機嫌が良い時、なんでもない時と、要するに何時火がつくのか全く分からないのだ。
若干14歳とは思えない情緒不安定さ。

そしてその被害対象も全くのランダム。老若男女を問わないのだ。
もちろん教師にだって手を上げる。
酷い時は朝礼中、あのお立ち台の上で、生徒全員が見守る中で、「話が長い」只それだけの理由で、校長の尻を叩く。

いや、理由があるだけマシなのかもしれない。
そう思えるほどに、お銀は危ない女なのだ。

そして、そんなお銀に睨まれたイワナカ。
今回はちゃんと理由がある。生徒達に嘘をつき味噌汁を横領するという大罪を犯してしまったのだから、いくら叩かれても文句は言えない。

イワナカは全てを受け入れた表情で、コックリと頷いた。
するとお銀も頷いた。二人が通じ合った瞬間である。


10分後
イワナカの尻、見事なまでのワインレッド。
お銀の手にかかれば、この程度は造作もない、といった所だろうか。

そして味噌汁の行方。
手にしているのは、SMマスターガールお銀。

彼女はおもむろに教室に入ると、教壇の上に立ち、教室全体に向かって打ち水をするように味噌汁を撒いた。

お銀の行動に仰天する生徒達。
あまりの暴挙に頭から何本か神経が飛び出てしまった者もいるだろう。
この世に数杯しかない味噌汁を、こんな薄汚れた床に撒き散らすなんて。

信じられない。なんて無茶苦茶な女だ。
誰もがそう思った。
しかし、それはお銀の中にミジンコ程度に残っていた慈愛の精神が成した、飴と鞭でいう所の『飴』行為だったのだ。

お銀は言う。

「舐めていいよ」

生徒達はその優しさに涙し、同時に床に這いつくばった。
そして先ほどのイワナカのように口で筒を作り、床に染み込みかけている味噌汁を、力の限り吸い込んだ。

「おいしい、おいしいですよ!お銀さん!」

口々に聞こえる歓喜と賛美の声。
それを聞いたお銀は、嬉しくなってまた皆の尻を叩いてしまうのであった。
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2007/10/07 01:50 | Comments(0) | TrackBack() | スパ

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