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2025/05/02 16:42 |
大塚さん
 下の記事でリクエストしていただいた大塚愛のスパ小説です。
 9/7後半追加しました。



「そこに立って、お尻出しなさい」
「え……」

 都内某所の収録スタジオ。愛はマネージャーにそう言われ、思わず言葉を失う。

「反省できない子にはお仕置。いつも言ってることでしょ」
「いや、でも、こんなとこで……」

 マネージャの指さす方向を見て、弱弱しい口調で返す。歌番組収録中のスタジオには、当然多くのスタッフがいる。2人きりで行われるいつものお仕置とは、状況が違いすぎた。先ほどまでの笑顔を失い、愛は泣きそうな表情になる。
 しかし、マネージャーの表情は険しく、とても許してくれるような様子ではなかった。

「早くしなさい。たくさんの人を待たせているのがわからないの」
「でも……みんな見てるのに」
「だからここでやるんじゃない。みんなに恥ずかしい格好見てもらったら、少しは反省できるでしょ。
 まさか、自分が何したかわかってない訳じゃないよね」

 スタッフたちが怪訝な表情を浮かべる中、愛は涙声で答える。

「……セット蹴って、壊しました。ごめんなさい」
「そう。で、その後なんて言った?」
「……」
「さっき自分で言ったことじゃないの? 答えなさい」
「……こんなのは、また作ればいい、と言いました」
「悪びれもせず、ね。挙句の果てには、「すぐ壊れるセットが悪い」とまで言ってたよね」
「はい……」
「そこまでわかってるんだったら、自分が罰を受けるべきなのはわかるんじゃない」

 マネージャーが厳しい口調で問いただす。辺りにも、緊張した空気が漂い始めていた。

「みんなの前でお尻叩くのだけは許してください……お仕置きは後で受けますから」

 愛はうつむき加減で懇願した。しかし、心の中では許してくれるわけがないと悟っていた。
 人のいるところでお仕置を言い渡されたことは今まで一度もなかった。愛が酷いミスをした時も、寝坊してスタジオに遅れてきた時も、お仕置を受けたのはその日の仕事がすべて終わってからだったのだ。だからこそ、それだけ今日の愛の行動に怒っている、お仕置を受けるまでは絶対に許してはくれないほどに。

「早くしないと回数が増えるだけよ。それとも、もっと恥ずかしいお仕置が受けたい?」

 もっと恥ずかしいお仕置。その言葉を聞いて愛は一瞬体を震わせた。このままごねていたら、もっと辛い目に遭う。選択肢はひとつしかないのだ。

「ごめんなさい……お尻叩いてください」

 そう言って、愛は一歩、また一歩と前に出る。
 そして前方の壁を前に立ち止まり、数秒の間をおいてジーンズのベルトを緩める。
 
「早くしなさい。何回言わせるの」

 言われて愛は、小さな声で「はい」と返し、そのまま下着と一緒にジーンズを膝の高さまで下ろす。

「じゃ、両手を壁に付けて。
 回数はそうね……あまり時間も取れないから、私からは20回だけにしておくわ」

 ええ!?少な! と一瞬驚いた愛だが、しかし聞き逃しはしなかった。
 私からは……? はっきりと聞こえたその言葉からは、嫌な予感しかしなかった。

「で、その後スタッフの皆さんからも10回づつ。反省できていなかったら追加するかも知れないけど、とりあえずそれでいくから」

「みんなからって……」

 愛は、思わず振り返って周りを見る。数えてみればスタッフは10人ほど。全部あわせれば100回を越すことになる。

「いや……そんなん、無理です」

 つい本音がこぼれる。この場で逆らって罰が軽くなることなどありえないと知りながらも、言葉にせずにはいられなかった。100回。いつもはその半分でも耐えられず、泣きじゃくって醜態を晒すというのに。これでは頑張っても絶対にどうにもならない。

「あのね、この回数はあなたがやったことに対する罪に相当する数であって、あなたが耐えられるかどうかは関係ないの。それよりもう始めるから、お尻突き出して、きちんとお願いしなさい」

 冷たく放たれたマネージャーの言葉に、愛は観念した。どうせ避けられないなら、早く終わらせたほうがいい。恥ずかしさに耐えてお仕置きの姿勢をとり、涙声になりながらも話し始める。

「皆さんに迷惑をかけて、すみませんでした。罰として、お尻に、お仕置きをお願いします」

「よし。じゃあ、数もちゃんと数えなさいよ」

 言うと同時に、マネージャーの平手が愛の尻に容赦なく叩きつけられる。

「いちっ」

 ぱちん、と音が鳴り響く。周りのスタッフ達はマネージャーの放つ空気にのまれて無言。完全に引いていた。

 そしてその後もマネージャーのお仕置きは続き、最後の20回目を終えた。
 愛は声を殺して泣いており、尻は赤くなっていた。この後100回も続けたらどうなるのか。一人の若手男性スタッフはそのような事を考えて、思わず「ぱねえ……」と呟いた。

「私からは終わり。……じゃあー、次、お願いできる」

 マネージャーは近くにいた女性スタッフの一人に声をかけた。愛より年下の新人スタッフである。女性は困惑しながらも、マネージャーの圧力に押されて了承する。

「愛さん、ごめんなさい」

 謝罪とともに放たれた平手は、流石にマネージャーと比べたら弱弱しいもので、正直あまり痛みはなかった。しかし、同姓で年下のスタッフにお仕置を受けているという事実が、どうしようもなく羞恥心をかきたてた。小さな声で「にじゅういち」としっかり回数を数えながらも、愛の顔は真っ赤になっていた。

「さんじゅうっ、……ありがとう、ございました」

 遠慮がちだったお仕置きも、マネージャーからの指摘が入り、徐々に強まっていった。最後の一発が終わる頃には、愛は声を上げて泣き始めていた。

 その後、男性も含めたスタッフからのお仕置が続いた。流石に全力で叩く者はいなかったが、50回を超えた辺りからは我慢の限界といった様子で、愛は人目もはばからず泣きじゃくっていた。途中で何度か耐え切れずに許しを請うが、その度にマネージャーから叱られ、追加のお仕置を受けた。
 
 そして最後の一人。愛と同年代の男性スタッフからのお仕置が始まる。愛はもう恥ずかしさを考える余裕もなく崩れそうな足を大きく開いて、ただ終了の時を待っていた。
 一発目。遠慮しつつもそれなりの強さで放たれる。

「ああっ」

 70回を過ぎた辺りから数は数えられていなかった。始めの頃は間違えるたびにやり直しを受けていたが、愛の状況から、徐々に黙認されるようになっていた。

 5回、6回と続ける。比較的早いペースなのは、早く終わらせてやろうという男性スタッフなりの優しさであった。周りのスタッフたちも、見ていられないといった様子だ。

 愛の叫び声の中、ほとんど間を置かずに最後の一発が放たれる。愛は泣きながらも最後のスタッフに礼を言い、壁についていた手を離した。

「これで全員、終わりね。ほら、愛。皆さんにももう一度お礼を言いなさい」

 愛は下着を下ろしていることも忘れて前を向き、スタッフたちに向けて頭を下げた。

「今日は、本当にごめんなさい。はん、反省、してます、もう二度とあんなこと、しません」

 愛は、心の底から反省していた。お仕置きの最中、痛みと恥ずかしさに耐えながら、何度も自らの行いを後悔していた。これだけのお仕置きをされるに値する振る舞いだったと、思い返すたびに痛感した。謝罪の言葉は、そんな愛の精一杯の気持ちだった。

 10秒ほど経って、ようやく頭を上げる。いまだ涙が止まらず、どうしようもなく滲む視界にスタッフたちとマネージャーの姿が映る。痛みと緊張で頭が真っ白になっていたが、あふれ出る涙を拭って、ようやく皆が拍手していることに気がついた。

「よく頑張ったね。もう十分反省したって、みんなにも伝わってるよ」

 マネージャーの笑顔を見て、愛の両足は崩れる。ようやく緊張から解き放たれ、また声を上げて泣いた。
 
「ごめんなさい、みんな、ありがとう」

 今日のことをしっかり胸に刻みつけて、二度とあんなことのないように誓う愛だった。
 
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2009/07/05 21:35 | Comments(2) | TrackBack() | スパ
見えなくても尻

「そこに、見えない尻があるでしょう」

 男は怪しげな笑みを湛えつつ、私の足元の辺りを指差した。
 そこには、カーペット敷きの床が広がっていた。

「見えない尻? 確かに床以外何もありませんが」
「いえ、何もないわけではなく、ただ見えないだけです」

 看板に興味を惹かれてドアをくぐったはいいものの、店員と思わしき男の言葉は、初っ端から理解に苦しむものだった。私は早くも不安になってきた。

「見えないものをどう愉しめと言うのですか」
「真のスパンキング好きなら、そのような瑣末な問題は障害にすらならないはずです。そして、この店に入ってきた時点であなたはその領域に入っている。普通の人ならば、このような怪しげな店には近づきもしないでしょうからね」

 男の自信に満ちた物言いは、僅かに私をたじろがせた。しかし、こちらもそう簡単に言い包められるつもりはない。私はわざと語気を荒げて言った。

「私はパントマイムをしに来た訳じゃない。この様なもので料金が発生するなんてふざけている」
「料金については、あなたが満足したらお支払いいただくという形で結構です。私の目的はお金を取る事ではなく、この素晴らしい愉しみを皆様に提供することなのですから。でなければこんな物好きな商売はできません」
 少し納得しかけてしまった。確かに、こんな店に近づく者は極少数だろう。

「しかし……」
「……そうだ。では今から私が実演いたしましょう。実際に見てい頂ければ、あなたも納得するでしょうから」

 男はそう言うとおもむろに私の横に並び、右手を前方に伸ばして腰の辺りの高さで静止させた。そしてそのままゆっくりと広げた手のひらを上下左右に動かす。まるで何かを撫でているような、柔らかな手つきだ。

「確かに見えませんが、ここには紛れもなく尻があります。女性の尻、今は前屈の姿勢をとっていますね」

 そう言われても、何も見えない。
 ただ、男の挙動はやけにリアルで、実際その場に女性の尻があったところで全く違和感を感じないほどであった。彼がもしパントマイム師であったとしたら、その腕前は相当なものだろう。

「ちょうど一時間ほど前に入ったお客様が彼女の尻を叩いていきましたから、まだ少し痛がっているようです。しかし、スカートの上からですし、遠慮するほどでもないでしょう」

 男は喋り終えるが早いか腕をスッと振り上げ、しなやかに前方へと振り下ろした。そして、ちょうど先ほど『尻がある』と言っていた辺りで腕をぴたりと止めた。音もないが、恐らく、叩いたのだろう。

 その後、男は何度か同じ挙動を繰り返した後、私の方は向かずに話し出した。

「さあ、もうご理解頂けたでしょう。あなたの望むものは、すぐ目の前にある。きっと、満足されるはずです」

 確かに、私は男の実演に驚くほど見入っていた。途中から、私の視界には紛れもなく女性の、尻を突き出した姿が映っていた。最初は聞こえなかったはずの音が、痛みに耐える女性の声が、現実に切迫する現実感を伴って私の感覚を刺激したのだ。しかしそれは、男が一連の動作を終えると同時に消滅していた。

「わかりました。少しやってみましょう」
 私は好奇心に負け、男の誘いに乗った。
 そして早速、目の前にあるはずの尻を叩こうと腕を振る。

 スッ、と大分遠慮した強さで腰の辺りにある尻を叩いた。

 そう、叩いたのだ。紛れもなく、私の手のひらには何かに触れた感触が残っていた。そして、男の実演を見ていた時と同じように、私の視界に女性の尻が映り始める。

「これは……」

 思わず感嘆した私は、男を振り返った。男はにやりと笑って、頷いた。もう説明は必要ないでしょう、と言っているようだった。

 これは……素晴らしい!
 私は再度手を振り上げると、今度は少し強めにスナップをきかせて叩いた。
 あっ……と声が聞こえる。私は、自らの胸がこれまでにない程に高まっていることに気付いた。これが、私の求めていたものだったのか。

 その後も、10、20と回数を重ねていく。次第に叩きかたに慣れてきて強さも増してきた。彼女が痛みに耐え切れず膝を崩れさせた。私はあえて彼女を立たせようとせず、正座をして膝の上に彼女を乗せた。こうすれば、この後さらに辛くなる罰からも逃げられなくなる。さらに、私は泣いている彼女のスカートを捲り、下着を引き下ろした。恥ずかしそうに隠す手を少し強引に押さえつけ、再び叩き始める。30、40回……聞こえてくる声は悲鳴に近くなっていくが、彼女は門限を2時間遅れてきたので120回叩くまでやめるわけにはいかなかった。私には、たった一人の兄として彼女を躾ける義務があるのだから。そう、2年前に両親を失った私たちは、それ以来二人で生活している。まだ高校生である彼女を周りから馬鹿にされない立派な大人に育てる為、私は厳しかった両親に代わり、心を鬼にして鞭を振るう。その甲斐あってか、彼女は随分と素直な、いい子に育ってくれた。それがどうしてか、今日は2時間もの門限オーバー。理由を聞いてもただ謝るばかり。いくら泣かれても今日は許すわけにはいかなかった。今、ちょうど60回を迎えた。私がどうだ、理由を話す気になったか?と尋ねると、彼女はじっと顔を伏せたまま、ぼそりと口を動かした。ごめんなさい、実は

「ちょっと、お兄さん! 何やってるんですか!?」

 違う。彼女は私のことを『お兄ちゃん』と呼ぶのだ。それに、声もそんな男らしいものではない。誰だ、一体。人の家に上がりこんで。私は声の聞こえるほうに視線をやった。

「もう朝ですよ。ほら立って。いつまでも酔っ払ってないで」

 声の主は、警官然とした格好をした男だった。急な登場人物に、私は頬を張られたような衝撃を受け、同時にここが自宅でない事に気付いた。

「あ……。綾乃は……?」
「それは知りませんけど、今あなたは一人ですよ」

 一人? いや、私は確かに妹の綾乃と自宅で……
 いやそれも違う。私は店に入ったのだ。そこで、尻を叩いていた。
 しかし何故だろう。ここは確かに昨夜の店があった風俗街だが、周辺を見回してもそれらしき看板は見当たらない。当然、店を出た記憶もない。

「なんで……」
「まったく、飲みすぎですよ」
「おい、いつまでやってんだ。そんな酔っ払い放っておけよ」
「あ、すみません。すぐ行きます」

 少し離れた場所にいた別の男に声をかけられ、私の隣にいた警官然とした男は走り去って行った。

 呆然とした私は、ふと手に痛みを感じた。見てみると、手のひらが腫れて真っ赤になっていた。
 男に料金を払えなかったのが、ひどく残念だった。


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2008/08/16 03:47 | Comments(4) | TrackBack() | スパ
地球/F
「足りない! 全っ然足りないわ!」

 まどかは突然に叫ぶと、手を大きく振り上げて、握っていたパドルをフローリングに叩きつけた。深夜の一室でその音は大きく響き、しかしまたすぐに元の静けさを取りもどした。その落差によって自分の立てた騒音の大きさに気付いた彼女は、あわてて口をつぐむ。家族に聞かれていなければいいが。

 床に転がったパドルは新しく買ったもので、合計十二本目になる。
重々しい光沢を放つそれは、突撃!となりの晩御飯を思わせる圧倒的なサイズと表面の部分にあしらわれた無数のトゲが印象的な、もはやパドルと呼ぶのはためらわれるほどの一品だ。常人なら一発受けただけで泡を吹いてもおかしくはないだろう。実際、これはまどか自身が吟味に吟味を重ねて破壊力に重きをおいて選んだものなので、期待感は今までより数段上だったのだが。

「こんな、こんな弱っちいのじゃ……ほんと、足りない」

 やはり、満足には到底至らなかった。それほどまでにまどかの欲望は深く、尻は硬いのだ。


 まどかがセルフスパンキングに目覚めたのは、高校に入学して一月ほど経ってからのことだった。
 以前からそういった方面への興味は持っていたのだが、生まれてから一度も尻を叩かれたことのなかった彼女には相談できる身近な相手がおらず、ましてや「叩いてください」と頼み込む勇気なんてあるはずもなかった。なので、小・中学時代はどうすることもできず、平穏に退屈にもの足りない日々を過ごしてきた。
 高校生になって、入学祝にと両親に買ってもらった携帯電話、つまりネット環境が彼女を本格的に目覚めさせた。
 そこで様々な情報を得て、セルフスパンキングという存在を知った。

(自分で自分のお尻を叩くなんて……盲点だった!)

 まどかは雷に打たれたような衝撃を覚えた。今まで誰かに叩いてもらいたいという欲求が先行していて、一番身近な存在に気付けなかったのだ。灯台下暗し、とはまさしくこのことだろう。
 知ってしまったまどかは、即座に行動を開始した。なんといっても一人でできる、というのは大きい。誰かに叩いてもらうのは恥ずかしくてできそうになかったが、これなら気にすることはない。誰もいない場所ですれば、家族にばれる心配も全くないのだ。
 しかしその直後、彼女は期待感いっぱいの笑顔から一転して絶望的な気分へと落ちてゆく。
 全く、痛くない。
初めは平手でぺしぺしと叩いてみて、徐々に感触を確かめながら力を強めていったのだが、腕を限界まで振り上げて放った全力の一撃でさえも彼女には何も感じさせなかった。衣類が衝撃を無効化させているのではないかと下着を下ろしてみたり、自分の平手は物凄く非力なのではないかと手近にあった定規を使って試みたりと知恵を絞ってできる限りを尽くしてみたが、それらも全て徒労に終わり、最後に残ったのは彼女にとって最悪といえる結論だけだった。
 わたしのお尻、めちゃくちゃ硬い。
 確かに過去を振り返ってみても「尻が痛い」などと思ったことは一度もなかった気がするし、改めて自分の尻を触ってみても、出てくる感想はやはりまどかにとって喜ばしいものではなかった。
 尻が硬いことと痛みを感じないこととが直接的に関係しているのかどうかは知識のないまどかに判るはずもなかったが、結果はあくまでも残酷で、彼女にとってはそれが全てだった。

 それでも、まどかは諦めることなくセルフスパに挑み続けた。叩き方を研究し、道具を買い集め、あげくは基礎体力の向上にまで手をつけ始めた。もうすぐ高三になる彼女は、努力の成果として隠し切るのが厳しくなってきたほどに大量のパドル、ケイン類と、しなるような手首の動きと、更には引き締まった肉体をも手に入れたが、言ってしまえばそれだけで、彼女の最も望むものはいくら頑張っても遠く、姿さえ見せてはくれなかった。



――そして限界は訪れた。
 一人の少女を壊れさせるには充分なほどの挫折を、彼女は味わってきたのだ。
 もはや行動に意味などない、あったとしても、それは到底まともとは言えない。ただ彼女は唐突に思ったのだ。

「自分じゃどうにも出来なくて、他人にはとても言えない。だったら地球に頼るしかない!」

 真理を得たつもりでいる彼女は、着替えるのも忘れて意気揚々と外に飛び出し、近くの公園まで歩を進めた。そこらの路地裏でも問題なかったが、出来ればちゃんとした土の上で試してみたかった。
 公園はそれほど広くなく、深夜ということもあって人の気配はまるでなかった。街灯の光を浴びたブランコや滑り台が静寂と共に佇んでいる。
 その中に足を踏み入れたまどかは、興奮抑えきれぬといった様子で辺りを見回し、入念に人が来ないことを確認した。一応、人に見られたら恥ずかしいという意識は残っているのだ。逆に言えば、見られさえしなければ問題ないとも思っているのだが。
 やがて、準備完了、と小さく呟き、昂ぶる気持ちを少しずつ開放するようにゆっくりと息を吐いた彼女は、カッと目を見開くと吐いた息を今度は一気に吸い込み、渾身の力を脚に集めて月まで届けとばかりに思いっきり跳んだ。そして宙に上がった彼女は、両脚をたたんで三角座りをするように抱えこむ。
 
「――っ!」

 一瞬の後、公園内の静寂はわずかに破られた。まどかの尻が地面とぶつかる、どっ、という音によって。
 まどかは全身を抜ける衝撃に頭を揺られて数秒間ぼおっとして何も考えられなかった。心身ともに準備万端だったとはいえ、尻から地面に落ちるなんて経験はそうそうないために体が対応し切れなかったのだ。

 痛みはその後にやってきた。
 彼女は落下した時と同じ姿勢のままで「ううー」と唸りながら痛む箇所を両手で強く抑え、深夜の公園で一人呟く。

「んで…………」

 痛みのあまり地面に横向きに倒れこみ、彼女は更に唸り続ける。地球に向かって呪詛を投げかけるように。

「なんで……腰……なの……」

 硬い地面との衝突によって発生した衝撃は、当然の如く腰部に殺到した。予想外の事態に陥ったまどかは、様々な思考を全てふっとばして、パジャマ姿で冷たい土の上をごろごろ転がる。生地や髪に砂がつくことなど気にしていられない。とりあえず今は、やり様のない怒りと失望感と腰を襲う鈍痛で頭がいっぱいだ。
 これで泣かない人がいたら会ってみたい。
 涙で濡れた顔に砂粒をつけながらまどかは思った。



 しばらくして腰の痛みもある程度治まったころ、まどかはようやく意味不明な思考から目を覚まし、緩んだネジが締めなおされた彼女は、そこでようやく尻の痛みが皆無であることに気付いた。
 結果はプラスどころかゼロにすらならず、腰痛と最低な気分だけがマイナス要素として残されたのだった。

 そして新たな挫折を味わった彼女は、いまだじわじわ痛む腰を両手で押さえ、半ばブリッジのような体勢で夜空を仰ぎ、己の行動の愚かしさを叫ぶ。
 たった一言で、明確に。

「馬鹿か!」

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2007/10/07 01:54 | Comments(0) | TrackBack() | スパ

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