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2025/05/03 04:07 |
赤の仕置き人
「ね、キミ、一人なんでしょ? お茶に、お茶飲みに行こうよ。そこに自販機あるからさ」
「で、でも……わたしは」

 駅前の、人でごった返す広場。
 真上に昇った太陽の下で、ここなら騒がしすぎるからベタなナンパを繰り広げても目立たないだろうと予測した変態風の男は、粘着質な口調でターゲットの少女に詰め寄っていた。

「ぼ、僕と缶コーヒーを啜りあおうよ、ね」
「ごめんなさい。わたし用事が……」
「じゃあ早飲み対決しよ。それなら時間とらせないから」

 少女が気弱な態度を見せるのをいいことに、男はぐいぐいと顔を近づけて更にまくし立てる。握り締めて手汗をまとった五百円玉は、本日のナンパ費用だ。

「コーヒーは、おごるからさ。すぐそこだよ。行こうよ」
「……やめてください。離して……」

 五百円玉を持っていないほうの手で少女を捕まえた男は、荒れた息を吐きながら強引に歩みを進めだした。このまま自販機まで引っ張り込みさえすれば後は何とでもなる、という魂胆である。犯罪者に限りなく近い思考だ。

「ほら、来てよ。早飲みしよ。負けても割り勘になるだけだから、損はしないよ」
「嫌……やめて」

 男が少女を握る手に力を込めた。少女は痛そうに顔をゆがめ、心の中で叫んだ。
(助けて!)
 だがそんな声を聞きつける者は当然おらず、広場を行き来する人々は無関心に男と少女のそばを通り過ぎる。誰もが二人のやり取りを風景の一部として捉えていた。
 少女は悔しさに歯噛みした。友人との約束もあるのに、電車に乗らないといけないのに、こんなところで……。街は騒がしいはずなのに、彼女には凍りついているようにさえ見えた。
 そして、ここではっきりと断れず、大声で助けを呼べない自分も……

 と、その冷たい空気をぶち破るように、どこかから声が響いた。

「やめろおおお! 悪事は私が許さん!」

 男は突然の大声に驚き、辺りをキョドキョド見回した。「悪事」という単語から自分を指しているのだとわかったところを見ると、どうやら悪いことをしているという自覚はあるようだ。

「貴様だ貴様、そこのリュックの男!」
「!」

 声が左から聞こえてくることに気付いた男が割とすばやくそちらに振り向くと、そこには、人ごみに隠れながらも十分に目立つ服装をした一人の変な人が立っていた。

 ――変な人
 まさしくそう呼ぶにふさわしい。
 原色そのままの真っ赤な全身タイツに身を包み、頭部は同じく赤のマスクで覆い尽くしている。目や口を出す穴すら見当たらない顔面には、唯一黄金に輝く「S」の文字が大きく張り付いている。
 まるで血液が人をかたどって動いているかのような気色悪さだ。

「少女よ! 今助けるぞ!」

 少女には、あの赤い人物が自分を助けてくれる存在だなんて微塵も思えなかった。それどころか、背筋をピッと伸ばして腕を大きく振りながら近づいてくる姿は恐怖すら感じさせる。周囲の人々も危険を感じたのか、たっぷり三人分ほどの道を空けて流れてゆく。
 いけない! このままでは今とは比べものにならないくらい酷い目にあわされる。

 逃げないと!
 男と少女、二人同時に思ったときには、もう遅かった。大股気味に歩いてきた謎の赤男は二人の前に立ちはだかり、見えない口からよく通る声を吐き出した。

「私は正義の戦士、スパレッド! 白昼堂々誘拐を企てる不届きな輩め。存分に仕置きをしてやる、覚悟しろ!」
「そ、そんな。僕は誘拐なんてしてない、ただお茶に誘っただけ」
「黙れっ!」

 謎の男、スパレッドの怒声が空気を震わせる。言い訳は一切受け付けない体制だ。男は見事にひるまされ、二の句を継げなくなった。

「先ほど、貴様は無理やり彼女を自販機まで引きずり込もうとした。その証拠に、彼女は嫌がる声を上げていた。私は目も耳も良いのだ」
「……うう……」

 全てを見られていた……。それを聞かされた男は、少女と五百円玉を握るそれぞれの手を力なく地に垂らした。アスファルトの地面に甲高い音が響く。

「罪を認めろ、青年。いま素直になっておけば、正義の一撃を受けるだけで済むぞ」

そう言うと、スパレッドは背中から人を殴るのに最適な長さの真紅の棒を取り出した。「ジャスティス・ロッド準備完了」と呟き、野球選手さながらの豪快な素振りを始める。

「……そんな……ただ、ナンパをしただけなのに」

 シンプルな打撃用武器を目にした男は絶望的な表情になり、膝を地に落とした。
 そして、そんな男の姿に対する同情心と、これから起こるであろう惨劇の目撃者になりたくないという気持ちとが混ざり合った少女は、震える声でスパレッドに話しかける。

「そ、そうですよ……いくらなんでも、それで殴るのは」
「黙れっ!!」

 スパレッドは興奮状態に陥っているようで、少女の願いは怒号一発かき消された。

「このロッドで、人を蝕む悪の心を打ち砕く。それが……それが私の」

 男のななめ後ろに立ったスパレッドは、大きくロッドを振りかぶり、膝立ち状態の男の尻に照準を合わせる。太陽の光に顔面のSがギラリと反射し、

「正義だあああああああああ!」

 死ぬほど痛そうな音が鳴り響いた。少女は思わず目を瞑る。

「………………っ!」

 男は白目をむいてアスファルトに倒れた。周囲には、見てみぬ振りをする大勢のほかに物珍しさから見物を決めこむ数名もいたのだが、彼ら彼女らは仕置きのえげつなさを目の当たりにしてついに逃げ出した。
 男は、そのまま動かない。

「ふう……これで悪は潰えた。青年よ、もう乱暴な真似はやめておきたまえよ」

 当然、返事はない。

「さて、では帰るとするか。…………ああ、そうだ。少女よ、怪我はないか」
「ひっ」

 ほんの数分前に悪魔の裁きを行った男の声に、少女は身をすくめる。恐怖で言葉が出てこない。

「怖がることはない。ほら、悪い男は私が成敗した」
「…………」
「そういえば名前を聞いていなかったな。私はスパレッド、キミは?」
「…………」
「怖い目にあったのはわかるが、黙っていては私も困る」

 そう言われても話せないのだからどうしようもない。少女は眼前の威圧的な存在に対して、うつむくことしか出来なかった。沈黙が続く。
 やがて、スパレッドは一つため息をつくと、仕方がないといった感じで小さく呟いた。

「……ジャスティス・ロッド再準備」

 ぐうっ、と持ったままになっていた必殺の武器を両手で力強く握りなおし、リプレイを見ているかのように先ほどと同じフォームの素振りを開始した。

「ひいっ」
 この光景には、さすがに悲鳴が漏れる。少女は無理やりにでも逃げようと、固まった足を僅かに動かした。
 しかし逃走はあえなく失敗。スパレッドは少女の二の腕の辺りを興奮気味に掴むと、演説をするように声を張り上げる。

「無視は! 無視はいかんぞ! 人を傷つける行為だ! 現に私も、いま、傷ついた! それはもちろん身体の怪我ではない! わかるか、心だ! 心が大いにえぐられた! よって執行!」
「いやー!」

 少女の必死の叫びが駅前広場に響き渡る。ロッドは天高くに突き上げられ、後は振り下ろすのみの状態だ。

「くらえ! 正義の――」

「助けてー!」


 ……そこからの少女は、ほとんど意識を失った状態だった。
 最後に耳に入ってきたのは、スパレッドの咆哮と、そしてかすかなサイレンの音。
 あとは、自分の涙を吸い込んだ黒いアスファルトや赤い光を点して走り去るパトカーなどの映像が断片的に残っているだけだ。
 気がつけば陽は傾いていて、彼女は自宅の前で立っていた。ここまでの経路は全く記憶にない。
 まず思い出したのはすっぽかしてしまった友人との約束で、謝らないと、と家に上がるよりも早く携帯電話を取り出した。
 
(あの変な人、一体なんだったんだろう)

 携帯を耳に当てながら、ふと思った。深くは考えなかった。

 電話が繋がる。
「もしもし。……うん、ごめんね。ちょっと、いろいろあって……」

 不意に、尻が痛んだ。今まで気付かなかったのが不思議なくらい強い痛みだった。
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2007/10/07 01:53 | Comments(0) | TrackBack() | スパ
学級会
「僕は猫を投げるのが趣味なんだ!」

学級会の最中、田中はいきなり立ち上がり訳の分からないことを叫んだ。
円状に並べた机に座る生徒たちは田中の発言に呆然とするばかり。
そして、それは俺も同じだった。馬鹿のように口を開け、手に持っていたおにぎりは床に落としていた。

いつもの田中は机の中に土を詰めてそこでカブト虫の幼虫を育てるような根暗男だった。
それが何だ、今の気色悪い主張は?本当に意味が分からない。

落ち着け落ち着け、状況を整理しよう。
そもそもこの臨時学級会を始めることになった発端は田中がクラス全員の机に
「プラトニックニャンコDX版VHSが欲しいです。誰か譲れ馬鹿^^」
と書いたことだった。

さっきも言ったが、田中は本来こんなことをするような奴じゃなかった。おとなしい奴だったんだ。
それだけにこの事件は校内全体に波紋を呼び、こうして臨時に学級会が行われる程の騒ぎになった。

そうして始まった学級会だが、田中の弁明第一号がコレだ。
抽選で弁護役に選ばれた俺もコレでは弁護のしようがない。

「ちょっと!!!猫を投げるのが趣味って・・・変態じゃない!!」

「そうだ!それにそんな趣味があるからってみんなの机に落書きして良いわけじゃないからな!」

「お前頭おかしいんじゃねーの!おい弁護士!どう思うよ!!!?」


ええ!?この状況でどうやって弁護すればいいんだよ?
正直、俺もみんなと同じ意見だし・・・言葉が見つからない・・・

30秒ほどだろうか。
俺は何も言えず黙りこくっていた。
教室内も静まり返り、俺の第一声を待っていた。
耐えられないほどの重い空気・・・全部投げ出してかえりたい・・・
・・・・・・
その時、教室の戸が開き誰かが入ってきた。

ガラガラ。

「ニャニャニャーニャー(お前らちゃんとやってるかー?)」

・・・・・
よかった、誰かと思えば先生か。
コレで一安心。先生なら田中の件もちゃんと取り仕切ってくれるだろう。
弁護役の俺はお役御免って訳だ。

「あ、先生。今弁護役の藤田君に田中君の弁護を・・・」

そこまで言って委員長の言葉は切れた。
委員長だけじゃない。クラス中がまたもや絶句した。

「猫やん猫やん!コレ猫ですやん!」

田中だ。田中が先生に襲い掛かったのだ。
確かに先生は猫だ。
しかし、ちゃんと教員免許は持っているし合気道も5段だったので誰もが田中の暴挙を予想できなかったのだ。
まさか猫先生に手を上げる輩がいるなんて・・・
田中の奴、ボコボコにされるぞ・・・

しかし


みんな教壇のほうに釘付けになった
田中は先生の首根っこを持ち、高々と掲げていたのだ。
そして、投げた。


ガッチャーン!


窓ガラスをぶち破った先生はそのまま外に放り出されてしまった。
まあしかし、先生は猫だから大丈夫だろう。合気道も5段だし。
そういえばサンボマスターが好きだとも言っていた。という事はサンボも会得しているのだろう。心配無用ってことだ。


「アハ!アハハハハハハハ!チョーキモチイー!チョー猫キモチイー!」


先生のことよりも、今はこの危険人物の処理が最優先だ。
次は何を投げるか分からない。

生徒全員が身構える。
タイミングを見計らって一気に攻め落とす作戦だ。
ジリジリ・・距離を詰めていく・・


バッ!

最初に飛び掛ったのは委員長だった。
ウサギのような身の軽さで田中の懐に入り込む。
そして、そのまま後ろに回りこみ田中の尻の辺りを手に持っていた平べったいヤツでパーンってやった。

「ホホ!イタイ!」

今だ!田中がひるんだ一瞬の隙を見計らって全員が一気に動いた。
即座に委員長と同じように背後を取り、尻の辺りを平べったいヤツでスパーンってやった。


「フホホ!イタイイタイ!」

スパーン!

「ヒョ、ヒョオーホー、イテーイイテエエー」


スパーン

「メエエエエエエ!」


スパーン

「パオオオオオオオン!」


スパーン

スパーン

スパーン・・・・




この宴は翌日の朝まで続いた。

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2007/10/07 01:52 | Comments(0) | TrackBack() | スパ
味噌汁争奪戦
僕はいつも思う。
もし味噌汁がこの世に茶碗3杯分くらいしか存在しない超貴重品で、
その超貴重品が今、この教室内にパッと現れたら、みんなはどんな反応を示すのだろう、と。

まず真っ先に動くのはヨシダだろう。
ヤツはネズミの如く俊敏で、尚且つハイエナの如く狡猾だ。
そんな二つの盗賊スキルを自分のモノにしてしまっている生まれながらの大罪人ヨシダなら、そのドブ川に三日間浸したようなドス黒い瞳を今までにないくらいキラキラと輝かせ飛びつくだろう、味噌汁に。

しかしそのままヨシダの薄汚い胃に収まってしまうほど、味噌汁争奪戦は甘くない。

次に動くのは只今授業真っ最中の担任教師、イワナカ。
そう、ヤツはこの教室内にいる者の中で唯一、『教師』という肩書きを持っている。
いうなれば絶対的権力者。このクラスの王である。

ヤツはこう言うだろう。

「コラコラ、今は授業中だぞ!その味噌汁は先生が預かっておいてやるから、放課後、皆でジャンケンして勝った人が貰えるって事にしよう。それなら公平だろう?ま、とりあえず今は授業に集中して、神経を研ぎ澄ませるんだ」

そしてイワナカは約束を破る。
授業が終わって、味噌汁を手に教室を出ると、光の速さで口をタコのように尖らせる。ヤツは狙っていたのだ、この瞬間を。

もうイワナカを止めるものはいない。至福の時が始まる。
イワナカの口、ストローのように筒状。効率よく味噌汁をすする為だ。
ゆっくりと、茶碗に近づける。
その茶色い液体に口をつけた瞬間、イワナカの勝利が確定する。


しかしイワナカは阻まれる。
権力者が全てを支配する時代はもう終わったのだ、そう告げるかの如く。

現れたのはクラス1のSMマスターガール、お銀だ。
イワナカの顔が引きつる。脳内に焼き付けられたお銀の恐怖が、蘇ったのだ。

お銀のスキル、それは尻叩き。
ヤツは一旦火がつくと、まるで暴走機関車の如く他人の尻を叩く。
それはお銀が怒ったとき、悲しみにくれている時、あまりにも機嫌が良い時、なんでもない時と、要するに何時火がつくのか全く分からないのだ。
若干14歳とは思えない情緒不安定さ。

そしてその被害対象も全くのランダム。老若男女を問わないのだ。
もちろん教師にだって手を上げる。
酷い時は朝礼中、あのお立ち台の上で、生徒全員が見守る中で、「話が長い」只それだけの理由で、校長の尻を叩く。

いや、理由があるだけマシなのかもしれない。
そう思えるほどに、お銀は危ない女なのだ。

そして、そんなお銀に睨まれたイワナカ。
今回はちゃんと理由がある。生徒達に嘘をつき味噌汁を横領するという大罪を犯してしまったのだから、いくら叩かれても文句は言えない。

イワナカは全てを受け入れた表情で、コックリと頷いた。
するとお銀も頷いた。二人が通じ合った瞬間である。


10分後
イワナカの尻、見事なまでのワインレッド。
お銀の手にかかれば、この程度は造作もない、といった所だろうか。

そして味噌汁の行方。
手にしているのは、SMマスターガールお銀。

彼女はおもむろに教室に入ると、教壇の上に立ち、教室全体に向かって打ち水をするように味噌汁を撒いた。

お銀の行動に仰天する生徒達。
あまりの暴挙に頭から何本か神経が飛び出てしまった者もいるだろう。
この世に数杯しかない味噌汁を、こんな薄汚れた床に撒き散らすなんて。

信じられない。なんて無茶苦茶な女だ。
誰もがそう思った。
しかし、それはお銀の中にミジンコ程度に残っていた慈愛の精神が成した、飴と鞭でいう所の『飴』行為だったのだ。

お銀は言う。

「舐めていいよ」

生徒達はその優しさに涙し、同時に床に這いつくばった。
そして先ほどのイワナカのように口で筒を作り、床に染み込みかけている味噌汁を、力の限り吸い込んだ。

「おいしい、おいしいですよ!お銀さん!」

口々に聞こえる歓喜と賛美の声。
それを聞いたお銀は、嬉しくなってまた皆の尻を叩いてしまうのであった。

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2007/10/07 01:50 | Comments(0) | TrackBack() | スパ

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